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人生朝露

人生朝露

『ダークナイト』と荘子。

荘子です。
荘子です。

クリストファー・ノーラン(Christopher Nolan 1970~)。
クリストファー・ノーラン(Christopher Nolan 1970~)と荘子の続きです。

参照:参照:『ダークナイト ライジング』と荘子。
http://plaza.rakuten.co.jp/poetarin/5130/

『ダークナイト( The Dark Knight)』(2008)。
『インセプション』と胡蝶の夢の関係というのは多くの人が指摘しています。当ブログも公開当初から主張しております。ただし、ノーランの代表作『ダークナイト(The Dark Knight 2008)』の方が、『荘子』の影響って強いんです。というわけで、今回は「ダークナイトと荘子」について。

まず、
「真・女神転生」 悪魔の属性図。
ちょっと前に、『真・女神転生』の悪魔の属性図について書きました。

参照:「ペルソナ」と荘子。
http://plaza.rakuten.co.jp/poetarin/5129/

これ、『ダークナイト』のキャラクターの配置に当てはまります。
バットマン。   ハービー・デント。
ゴッサムシティの犯罪撲滅に奔走する検察官「光の騎士」としてのハービー・デントと、自らの正体を明かさずに犯罪と立ち向かう「闇の騎士」バットマンの対置にも見られる「光と闇」の構図。同じ「Law(法・秩序)」の立場にありながら、(Light-Law 左上)と(Dark-Law 左下)の対比が描かれています。二人の間で揺れ動くレイチェルはちょうど(Neutral-Law)の立場にありましてこれも象徴的です。上の図で言うと縦軸の関係。

もう一つが、
バットマン。   ジョーカー。
バットマンとジョーカーの対立は横軸。こちらは、同じ闇の社会に生きる者同士でありながら、秩序の側(Dark-Law 左下)にいるバットマンと、それをあざ笑いながら破壊する側(Dark-Chaos 右下)にいるジョーカーとの対置。後半に登場するトゥーフェイスは「Neutral」の存在を失い(Dark-Law/Chaos 下側左右両極)という極端な存在となりますが、それですら、上記の図式の範囲にとどまります。

太極図です。
『インセプション』の場合には「夢と現実」の対比でしたが、『ダークナイト』では二つの軸の対比によって構成されています。

参照:心理と物理の“対立する対”。
http://plaza.rakuten.co.jp/poetarin/5094/

で、『ダークナイト』は、冒頭から『荘子』に対応するシーンで始まります。
「ダークナイト』銀行シーン。 

参照:THE DARK KNIGHT (2008) - Bank Robbery Scene
http://www.youtube.com/watch?v=v3-ClsRE9Yk&feature=related

荘子 Zhuangzi。
跖曰「何適而無有道邪。夫妄意室中之蔵、聖也。入先、勇也。出後、義也。知可否、知也、分均、仁也。五者不備而能成大盜者、天下未之有也。」(『荘子』胠篋 第十)
→盗跖(とうせき)曰く「泥棒に道があるかって?そりゃ、どこに行くにも道はあるさ。部屋に何が置かれているかを推理できるのが聖。押し入るときに先頭に立てるのが勇。出るときにしんがりをつとめるのが義。うまくいくための作戦を立てるのが知。分け前をきっちり公平にするのが仁だ。この五つの徳がなけりゃ、天下の大泥棒になれるわけはねえよ。」

・・・ここで、組織の金庫番でもある銀行員がこう言いますよね。

“Look at you! What do you believe in? What do you believe in!”(この街のチンピラどもは、昔は「名誉」だとか「敬意」だとかを信じていたものさ。それがどうだ!お前らに信じるものなんてあるのか!)
“I believe whatever doesn't kill you simply makes you... stranger.”(俺は信じている、死ぬような目に遭うたびに人は狂っていくと。)

ジョーカーのセリフは「困難は人を強くする(What doesn't kill you makes you stronger)」というニーチェの言葉のパロディなんですが、ここで、ニーチェが入るばっかりに、日本人でも『ダークナイト』を西洋哲学で説明したがります。しかし、これは『荘子』です。『荘子』の中で描かれる聖人・孔子の立ち位置が、バットマンのそれと一致するんです。

『ダークナイト』の序盤、バットマンのコスチュームをマネて、組織と立ち向かおうとする連中が現れます。
ニセバットマン。
しかし、案の定というか、彼らはまんまとジョーカーに捕らえられ、バットマンをおびき出すダシに使われてしまいます。

参照:The Dark Knight - Joker Video Threat HQ
http://www.youtube.com/watch?v=JpQJlkrpLRE

The Joker: No? Then why do you dress up like him?(本物のバットマンじゃないって?じゃ、なんでバットマンの服を着ているの?)
(中略)The Joker:whooo-hoo-hoo-hoo!
Brian:Because he's a symbol that we don't have to be afraid of scum like you.(彼は正義のシンボルだからさ。おれたちはおまえたちみたいな悪党におびえることなんてない。)
The Joker:Yeah you do, Brian. You really do. Yeah. Oh shh, shh, shh, shh, shh. So, you think Batman's made Gotham a better place? Hmm? Look at me. LOOK AT ME!You see this is how crazy Batman's made Gotham! You want order in Gotham? Batman must take off his mask and turn himself in. Oh, and every day he doesn't, people will die. Starting tonight. I'm a man of my word.(そうだね、ブライアン。本当にそうだ。君はバットマンの作り上げたゴッサムシティがよりよい街だと思っているんだね。ふーん。(中略)バットマンは覆面を外して真の姿をさらすべきだ。もし覆面を外さないなら、市民が一日一人ずつ死んでいくよ、今夜がその初日だ。オレは有言実行の人だ★)

荘子 Zhuangzi。
莊子曰「魯少儒。」哀公曰「舉魯國而儒服,何謂少乎?」莊子曰「周聞之。儒者冠圜冠者、知天時。履句屨者、知地形。緩佩玦者、事至而斷。君子有其道者、未必為其服也。為其服者、未必知其道也。公固以為不然、何不號於國中曰『無此道而為此服者,其罪死』」於是哀公號之五日、而魯國無敢儒服者。獨有一丈夫儒服而立乎公門、公即召而問以國事、千轉萬變而不窮。莊子曰「以魯國而儒者一人耳可謂多乎?」(『荘子』田子方 第二十一)
→荘子は哀公に言った「魯の国には儒者があまりおりませんね。」哀公は言った「いえいえ我が国には儒服を着た者がたくさんおりますよ、何を以て少ないというのです?」荘子曰く「(中略)本当の道を身につけた者は、見せかけの衣装にこだわることはありません。形だけを真似て道を会得していないことのあらわれでしょう。お疑いならば『儒者の服を着ながら、道を心得ていない者は死罪』とでも御触れを出してみてください。」哀公が言うとおりにすると、五日後には魯国で儒服を着る者はいなくなった。ただ一人、立派な体格の男が、儒服を纏いながら哀公の門前にやってきた。哀公が招きいれ国事について質問してみると、男は多様な設問に応じながら留まることがない。荘子は言った「魯の国を以てしても儒者と呼べる者が一名。これで多いと申せましょうか。」

・・・魯の国に孔子の模倣が流行したことがあったというこの寓話。しかし、ほとんど全員が孔子の格好を真似ただけで、孔子の教えを会得した者はいなかった。最後に、死刑の脅しにも動じず、哀公の御前に一人の人物が現れます。名前は一切出ていませんが孔子本人の暗示です。「論語読みの論語知らず」という言葉が現代にもありますが、優れた師や書物に巡り会いながらも、表層的な理解と、形式の模倣に終わり、その偶像にすがることで自らを慰めようとする人々への痛烈な批判でもあります。

次は、バットマンがジョーカーに尋問するシーン。
ジョーカーの思想が垣間見えます。ここは荘子からの引用ばかりです。
ジョーカーの尋問シーン。

参照:civilized people
http://www.youtube.com/watch?v=tJTfFt7xknw

ジョーカーはこう言います。

“ I'll show you. When the chips are down, these... these civilized people, they'll eat each other. See, I'm not a monster. I'm just ahead of the curve. ”(見せてやるよ。窮地に陥ったとき、あの「文明的な人々」とやらが、互いを相食むようになることを。オレは怪物じゃない。ただ、曲がり角の先にいるだけさ。)

荘子 Zhuangzi。
『民之於利甚勤、子有殺父、臣有殺君、正晝為盜、日中穴杯。吾語女、大亂之本、必生於堯、舜之間、其末存乎千世之後。千世之後、其必有人與人相食者也。」(『荘子』庚桑楚 第二十三)
→民衆の利害の感情を煽ると、子が父を殺し、家来が主君を殺し、人前で人の物を盗んだり、真っ昼間に蔵に穴を開けるような輩が出てくるだろう。だから、お前に言っておくよ。世界の混乱の元凶は舜や堯の聖人の時代から始まった。知者を尊び、利害で物事を考えることを是とするならば、それは千代の時代まで禍根として残る。このまま人為の価値を推し進め続けるとするならば、千代の後、人間がお互いを相食むような世も来るだろう。

・・・ここはまた、最初のシーンへのループにもなります。

参照:孔子と荘子と司馬遷と。
http://plaza.rakuten.co.jp/poetarin/5029/

今日はこの辺で。


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